Scrapyを利用した実践的なWebクローリングのテクニック
python scrapy1. Scrapy の概要
Scrapy とは何か
Scrapy は、Python で書かれた強力な Web クローリングおよびスクレイピングフレームワークです。Web サイトからデータを効率的に収集し、構造化されたデータとして抽出することができます。Scrapy は、大規模なクローリングプロジェクトに適しており、柔軟性と拡張性に優れています。
Scrapy の特徴と利点
高速性: Scrapy は、非同期ネットワーク処理を利用しているため、高速にクローリングを行うことができます。複数のリクエストを並行して処理することで、効率的にデータを収集できます。
柔軟性: Scrapy は、柔軟なアーキテクチャを持っており、開発者はカスタムコンポーネントを簡単に追加・拡張できます。これにより、プロジェクトごとに異なる要件に対応することができます。
強力なセレクター: Scrapy は、XPath と CSS セレクターをサポートしており、Web ページ内の特定の要素を簡単に抽出できます。これにより、目的のデータを正確に取得することができます。
リクエストの管理: Scrapy は、リクエストの管理機能を提供しており、リクエストの優先度付け、リトライ、クッキーの処理などを簡単に行うことができます。
ミドルウェアのサポート: Scrapy は、リクエストとレスポンスに対して処理を行うミドルウェアをサポートしています。これにより、データの前処理、エラー処理、認証などを柔軟に実装できます。
アイテムパイプライン: Scrapy は、抽出したデータを処理するためのアイテムパイプラインを提供しています。パイプラインを使用することで、データのクリーニング、検証、保存などを簡単に行うことができます。
2. Scrapy の主要コンポーネント
コンポーネントの概要と関係性
この図は、Scrapyのコンポーネントの概要と関係性を示しています。scrapy.cfg
の設定ファイルからScrapyプロジェクトが作成され、Scrapy Engineが起動します。Scrapy Engineは、Scheduler、Downloader、Middlewares、Spider、Item Pipelineなどの主要なコンポーネントを制御し、データの流れを管理します。Downloaderはインターネットを介してターゲットのウェブサイトにリクエストを送信し、レスポンスを受け取ります。Spiderはレスポンスからアイテムを生成し、Item Pipelineがアイテムのクリーニングと検証を行います。最終的に、クリーンアップされたデータが出力されます。
Scrapyのデータフロー
このシーケンス図は、Scrapyのデータフローを時系列に沿って表現しています。ユーザーがscrapy.cfgを設定し、Scrapyプロジェクトを作成すると、Scrapy Engineが起動します。Scrapy Engineはリクエストをスケジュールし、DownloaderがInternetを介してターゲットのウェブサイトにリクエストを送信します。ウェブサイトからのレスポンスは、DownloaderとMiddlewaresで処理された後、Spiderに渡されます。Spiderはレスポンスからアイテムを生成し、Item Pipelineに渡します。Item Pipelineはアイテムのクリーニングと検証を行い、最終的にクリーンアップされたデータが出力されます。
(見づらくて申し訳ないです🙇)
Spider
Spider の役割と動作 Spider は、Scrapy の中核となるコンポーネントです。Spider は、クロールする URL を定義し、ページから必要なデータを抽出するための解析ロジックを実装します。Spider は、レスポンスを処理し、新しいリクエストを生成することで、クローリングを継続的に行います。
Spider のサンプルコード
import scrapy class MySpider(scrapy.Spider): name = 'myspider' start_urls = ['http://example.com'] def parse(self, response): title = response.css('h1::text').get() description = response.xpath('//p[@class="description"]/text()').get() item = MyItem() item['title'] = title item['description'] = description yield item # 次のページへのリンクを辿る next_page = response.css('a.next-page::attr(href)').get() if next_page is not None: yield response.follow(next_page, callback=self.parse)
Items
Items の役割と定義方法 Items は、抽出したデータを構造化するためのコンテナです。Items を使用することで、データをフィールドごとに整理し、後処理を行うことができます。
Items のサンプルコード
import scrapy class MyItem(scrapy.Item): title = scrapy.Field() description = scrapy.Field() price = scrapy.Field() image_urls = scrapy.Field()
Middlewares
Middlewares の種類と役割
Middlewares は、リクエストとレスポンスに対して処理を行うコンポーネントです。Downloader ミドルウェアは、リクエストの送信前とレスポンスの受信後に処理を行います。Spider ミドルウェアは、Spider の前後に処理を行います。
Downloader ミドルウェアのサンプルコード
from scrapy import signals class MyDownloaderMiddleware: def process_request(self, request, spider): # リクエスト送信前の処理 request.headers['User-Agent'] = 'MyCustomUserAgent' return None def process_response(self, request, response, spider): # レスポンス受信後の処理 if response.status == 404: return None return response
Spider ミドルウェアのサンプルコード
from scrapy import signals class MySpiderMiddleware: def process_spider_input(self, response, spider): # Spiderへのインプット処理 return None def process_spider_output(self, response, result, spider): # Spiderからのアウトプット処理 for item in result: if isinstance(item, dict): # itemを加工する処理 item['custom_field'] = 'custom_value' yield item
Pipelines
Pipelines の役割と動作 Pipelines は、Spider から抽出されたデータに対して処理を行うコンポーネントです。Pipelines を使用することで、データのクリーニング、検証、重複除去、データベースへの保存などを行うことができます。
Pipelines のサンプルコード
from scrapy.exceptions import DropItem class MyPipeline: def process_item(self, item, spider): if item['price'] is None: # 価格が存在しない場合はitemを破棄 raise DropItem("Missing price") item['price'] = float(item['price']) return item
Settings
Settings の役割と主要な設定項目 Settings は、Scrapy の動作を制御するための設定ファイルです。Settings を使用することで、クローリングの動作、ミドルウェアの有効化、パイプラインの設定などを行うことができます。
Settings のサンプルコード
# settings.py BOT_NAME = 'myproject' SPIDER_MODULES = ['myproject.spiders'] NEWSPIDER_MODULE = 'myproject.spiders' ROBOTSTXT_OBEY = True ITEM_PIPELINES = { 'myproject.pipelines.MyPipeline': 300, } DOWNLOAD_DELAY = 1
scrapy.cfg
scrapy.cfg の役割と設定方法 scrapy.cfg は、Scrapy プロジェクトの設定ファイルです。プロジェクトの設定、デプロイ設定などを定義します。scrapy.cfg は、プロジェクトのルートディレクトリに配置します。
[settings] default = myproject.settings [deploy] url = http://localhost:6800/ project = myproject
3. バンを回避するためのテクニック
バン回避の重要性
Web クローリングを行う際、一定の制限を超えてアクセスすると、Web サイトからバン(アクセス制限)される可能性があります。バンを回避することは、クローリングを継続的に行うために重要です。バンを回避するためには、IP アドレスの分散、User-Agent の変更、リクエストの間隔調整などのテクニックを用います。
IP アドレスの分散
IP アドレスを分散させる方法
IP アドレスを分散させるために、複数の Proxy サーバーを利用します。リクエストを Proxy サーバーを経由して送信することで、Web サイトからは異なる IP アドレスからのアクセスとして認識されます。
Proxy の利用方法とサンプルコード
# settings.py ROTATING_PROXY_LIST = [ 'username:password@ip:port', 'username:password@ip:port', 'username:password@ip:port', ] DOWNLOADER_MIDDLEWARES = { 'rotating_proxies.middlewares.RotatingProxyMiddleware': 610, 'rotating_proxies.middlewares.BanDetectionMiddleware': 620, }
scrapy-rotating-proxies というミドルウェアを使用することで、リクエストごとに Proxy を切り替えることができます。
User-Agent の変更
User-Agent を変更する理由 User-Agent は、クライアントがサーバーに送信する HTTP リクエストヘッダーの一部で、クライアントのソフトウェアやバージョンを識別するために使用されます。デフォルトの User-Agent を使用すると、Web サイトからボットとして認識される可能性があります。User-Agent を変更することで、通常のブラウザからのアクセスに見せかけることができます。
User-Agent を変更する方法とサンプルコード
# settings.py USER_AGENT = 'Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/93.0.4577.82 Safari/537.36' # middlewares.py from scrapy import signals class RotateUserAgentMiddleware: def process_request(self, request, spider): user_agent = 'Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/93.0.4577.82 Safari/537.36' request.headers['User-Agent'] = user_agent
settings.py で User-Agent を設定するか、ミドルウェアでリクエストごとに User-Agent を変更することができます。
また、scrapy-fake-useragentを利用するとランダムなUser-Agentでリクエストを送ることができます。
リクエストの間隔調整
リクエストの間隔を調整する理由 一定期間に大量のリクエストを送信すると、Web サイトから過剰なアクセスとみなされ、バンされる可能性があります。リクエストの間隔を調整することで、アクセスの頻度を抑えることができます。
リクエストの間隔を調整する方法とサンプルコード
# settings.py DOWNLOAD_DELAY = 1.5 # リクエスト間の遅延を1.5秒に設定 RANDOMIZE_DOWNLOAD_DELAY = True # 遅延をランダム化 # spider.py import scrapy from random import randint class MySpider(scrapy.Spider): name = 'myspider' def parse(self, response): # 次のリクエストを遅延してスケジュール delay = randint(1, 3) # 1~3秒の遅延をランダムに生成 yield scrapy.Request(next_url, callback=self.parse, dont_filter=True, meta={'download_delay': delay})
settings.py で DOWNLOAD_DELAY を設定することで、リクエスト間の遅延を設定できます。また、リクエストごとに遅延を設定することもできます。
4. まとめ
Scrapy の利点と適した用途
Scrapy は、Python で書かれた強力な Web クローリングおよびスクレイピングフレームワークであり、以下のような利点と適した用途があります。
高速性と効率性 Scrapy は、非同期ネットワーク処理を利用しており、高速かつ効率的にクローリングを行うことができます。複数のリクエストを並行して処理することで、大量のデータを短時間で収集できます。
柔軟性と拡張性 Scrapy は、柔軟なアーキテクチャを持っており、開発者は自由にコンポーネントを追加・拡張することができます。ミドルウェアやパイプラインを使ってクローリングの動作をカスタマイズできるため、様々な要件に対応することができます。
データの構造化 Scrapy では、Item を使ってスクレイピングしたデータを構造化することができます。データをフィールドごとに整理することで、後処理や保存が容易になります。
統合されたツール Scrapy には、Web クローラー、スパイダー、アイテムパイプラインなどの統合されたツールが用意されています。これらのツールを使うことで、クローリングに必要な機能を簡単に実装できます。
大規模クローリングに適している Scrapy は、大規模なクローリングプロジェクトに適しています。並行処理や分散処理により、大量のページを効率的にクロールすることができます。
Scrapy は、以下のような用途に適しています。
- データ収集: Web サイトから情報を収集し、データ分析やマーケティングリサーチに活用する。
- 価格比較: 複数の EC サイトから製品の価格情報を収集し、価格比較サービスを提供する。
- ニュース収集: ニュースサイトから記事を収集し、ニュースアグリゲーションサービスを構築する。
- 不動産情報の収集: 不動産サイトから物件情報を収集し、不動産検索サービスを提供する。
Scrapy を使う上での注意点
Scrapy を使ってクローリングを行う際は、以下の点に注意が必要です。
著作権と利用規約 クローリングを行う際は、対象の Web サイトの著作権や利用規約を確認し、違反しないように注意してください。無断でデータを収集することは避け、必要に応じて許可を得るようにしましょう。
アクセス頻度の制限 Web サイトに過剰な負荷をかけないように、アクセス頻度を制限することが重要です。リクエストの間隔を適切に設定し、Web サイトのパフォーマンスに影響を与えないようにしてください。
IP アドレスのブロック対策 大量のリクエストを短時間で送信すると、IP アドレスがブロックされる可能性があります。プロキシを使って IP アドレスを分散させたり、User-Agent を変更したりすることで、ブロックを回避することができます。
データの品質管理 スクレイピングしたデータは、必ずしも完全ではありません。データの欠損や不整合がある場合があるため、データのクリーニングや検証が必要です。パイプラインを使ってデータの品質を管理しましょう。
Web サイトの変更への対応 Web サイトのデザインや構造が変更された場合、スクレイピングのコードが動作しなくなることがあります。定期的にコードをメンテナンスし、変更に対応できるようにしておく必要があります。
Scrapy は、Web クローリングとスクレイピングを行う上で非常に強力なツールですが、適切に使用することが重要です。著作権や利用規約を遵守し、Web サイトに過剰な負荷をかけないように注意しながら、効率的にデータを収集していきましょう。